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朝は定時に来て、決められた仕事だけやって、定時に帰る。頼まれていない仕事には、手を挙げない。こんな働き方を「静かな退職」と呼ぶことがあります。でも、ふと「これってクビになるのかな」と不安になりますよね。答えを先に言うと、決められた仕事をきちんとやっているなら、それだけで辞めさせるのは法律上かなりむずかしい。ただし、評価や給料には出ることがあります。読み終わるころには、どこまでが安全で、どこからが危ないか、線の位置が見えてきます。なお、この記事は会社などに雇われて働く人向けです(公務員や業務委託は、別のルールです)。
この記事でわかること
- 「決められた仕事だけ」は、約束(契約)のうえでOKなのか
- クビ(解雇)に、法律がつけている2つの条件
- 評価・給料・異動・残業で、会社ができること
- 「辞めてほしい」「クビ」と言われたときの動き方
先に結論
- 決められた時間に、決められた仕事をきちんとやるのは契約どおりの働き方
- クビにはだれもが納得できる理由と、やりすぎでないことの両方が要る(労働契約法16条)
- ただし評価・昇給・異動・残業は会社のルールしだい。最低限の働き方は、ここに出やすい
01「決められた仕事をきちんと」なら、約束どおり
ひとことで分かれ目は、任された仕事を終わらせているかどうか。
働く約束(労働契約)は、法律で見るとシンプルです。あなたは会社の指示のもとで働く。会社はそれに給料を払う。労働契約法6条には、そう書いてあります。
ことば労働契約
「働きます」「給料を払います」という、あなたと会社の約束のこと。中身は、入社のときにもらう労働条件通知書と、就業規則(会社のルールブック)で決まります。
約束の中心は「決められた仕事を、きちんとやること」です。頼まれていない仕事に手を挙げるかどうかは、自分で選んでいい部分だと、WE POPは考えています。
ただ、法律は「約束はちゃんと守ってね」とも言っています。労働契約法3条は、働く人にも会社にも、誠実に約束を守ることを求めています。
ほどよい距離と、手抜きのちがい
ほどよい距離線の内側
いいところ
- 決められた時間に、任された仕事を終わらせる
- 残業を命じられていない日は、定時に帰る
- 有給休暇を使う
- 頼まれていない仕事には手を挙げない(WE POPは、ここは選んでいいと考えています)
気をつけること
- 昇給やボーナスの評価は、伸びにくいことがある
- 「やる気がない」と見られることがある
手を抜く線の外側
いいところ
- その日は、少しラクに感じる
気をつけること
- 任された仕事を、期限までに終わらせない
- 仕事の指示を、理由なく断り続ける
- 連絡や報告を返さない
- 注意されても、直さない
この表はWE POPの考えをもとにした目安です。どこからが外側かは、会社のルールブックと、実際に何をしたかで決まります。
じゃあ、線の外側に出たら、すぐにクビなのか。次で見ていきます。
02クビ(解雇)には、法律の高いハードルがある
ひとことで「納得できる理由」と「やりすぎでないこと」。片方でも欠けたら無効。
会社が一方的に辞めさせることを、解雇といいます。でもクビは、会社がいつでも自由にできるものではありません。そのルールが、労働契約法16条です。
16条をやさしく言いかえると、条件は2つです。
- だれが見ても納得できる理由がある(客観的に合理的な理由)
- その理由で辞めさせるのが、やりすぎではない(社会通念上の相当性)
どちらかが欠けると、そのクビは無効です。また、「どんなときにクビにするか」は、ルールブックに書いておく決まりです。対象は、職場(店や支店などの事業場)ごとに、パートやアルバイトも含めていつも10人以上いる会社です。
「下から10%未満」だけでは足りない、とした裁判例
国(厚生労働省)のサイトにある裁判例を1つ。評価の順位が下から10%未満の人が、「能力が足りない」とクビになったケースです。1999年の東京地裁の決定(急ぎの手続きである仮処分の決定)です。
裁判所は、このクビを無効としました。下から10%未満の順位というだけでは足りない、という判断です。評価が「ほかの人と比べた順位」だったこと、会社が教育や指導をしていなかったことも、理由にあげています。
気をつけて
「何をしてもOK」ではありません
反省せず、注意されても直らない。そんな場合に、クビを有効とした裁判例もあると、国の資料(雇用指針)にあります。また、管理職や専門職などで、高い能力を見込まれ、特定の仕事のために即戦力として中途採用された人。その能力がなかったときは、わりと簡単にクビが有効とされた例もあると、国の資料(雇用指針)にあります。
30日前
理由があっても、クビにするなら原則少なくとも30日前に予告する
30日分
予告が足りない日数の分は、平均賃金(解雇予告手当)を払う。予告の日数と合わせて30日分以上
では、クビにならなければ何も起きないのか。そうとも言えません。
03評価と昇給には、はっきり出ることがある
ひとことで評価のしくみは会社ごと。最低限の働き方は、ここに出やすい。
人事評価のやり方を細かく決めた法律は、ありません。どう評価して、どう給料に結びつけるかは、会社ごとのルールです。
そのかわり、労働基準法89条があります。職場(事業場)に、パートやアルバイトも含めていつも10人以上いる会社は、ルールブック(就業規則)をつくる決まりです。そこには昇給のルールを書くことになっています。ボーナスも、ルールを決めるならここに書きます。
つまり「何をすれば給料が上がるか」は、会社のルールの中にあるはず。頼まれた以上のことをしない働き方は、そのルールの中で、評価が伸びにくいことがあります。
メモ
評価が低いだけでは、違法とはかぎらない
評価が低くて昇給しなかった。ボーナスが少なかった。それだけで法律違反になるとはかぎりません。気になるときは、評価の理由と、もとになったルールを上司に聞いてみてください。
じゃあ、もう決まっている給料を下げることは、できるの?
04決まった給料は、勝手には下げられない
ひとことで下げるには、原則あなたの同意が要る。罰としての減給にも上限がある。
給料などの働く条件は、会社とあなたが合意して変えるのが原則です(労働契約法8条)。会社がルールブックを書きかえて、一方的に不利にすることも、原則できません(9条)。
例外は、変え方に筋が通っていて、社員に知らせている場合です(10条)。不利になる度合いや、変える必要があるかなどで判断されます。
国のQ&Aは、給料の引き下げが、それだけですぐ労働基準法違反になるわけではない、としています。ただし、約束した額より少なく払われたら話は別。給料の一部が払われていないので、法律違反(24条)になりえます。
罰としての減給には、上限がある
ルール違反の罰として、給料を減らす。これを「減給の制裁」といいます。ルールブックに書いておく必要があり、労働基準法91条で上限が決まっています。
- 1回の減給は、平均賃金1日分の半分まで
- 何回あっても、1回の給料日に払う給料の合計の10分の1まで
3,587円
月給22万円の人の、1回の上限(月の合計は2万2,000円まで)
4,076円
月給25万円の人の、1回の上限(月の合計は2万5,000円まで)
4,891円
月給30万円の人の、1回の上限(月の合計は3万円まで)
平均賃金は、「直前3か月の給料の合計 ÷ その期間の暦の日数(休みの日も含む)」で出す、1日あたりの金額です。遅刻や欠勤で引かれる場合の計算は、遅刻・欠勤と給料の記事でくわしく書いています。
給料は守られている。では、異動や残業は?
05異動と残業は、ルールがあれば命令になる
ひとことでルールブックに書いてあれば、異動も残業も、原則として命令になる。
異動(配置転換)
ルールブックに「仕事の都合で異動を命じることがある」とある。仕事の内容や勤務地を限る約束もない。この場合、会社はあなたが同意しなくても異動を命じられます。1986年の最高裁も、ある会社の転勤の命令について、権利の濫用(やりすぎ)に当たらないと判断しています。
ただし、何でもありではありません。仕事の上で必要がない。ほかに不当なねらいがある。ふつう我慢する程度をこえる不利益がある。こうした場合は、やりすぎ(権利の濫用)です。辞めさせるための異動が違法とされた例もあります。
反対に、仕事の内容を限る約束があれば、本人の同意なしに別の職種へは移せません。2024年の最高裁の判断です。自分の約束の見方は、雇用契約書の記事にまとめています。
残業
残業する義務は、労働契約かルールブックに、そう書いてあることで生まれます。36協定(残業のための、会社と社員代表の約束)があるだけでは、義務にはなりません。
反対に、両方がそろっていたケースもあります。ルールブックに定めがあり、36協定の範囲で出た残業の命令を断った人がいました。製品の歩留り(良品の割合)が下がった原因を調べ直す作業でした。この人は、それまでにもたびたび懲戒を受け、反省が見られないとされていました。最高裁は1991年、こうした理由が重なったうえでのクビ(懲戒解雇)を有効と判断しています。残業を1回断っただけで、クビになったわけではありません。
気をつけて
「定時で帰る」は、命じられていない日の話
ルールブックに残業の定めがあるなら、正しく出た残業命令を理由なく断り続けるのは危ない線です。どうしても無理な日は、理由を伝えて相談してください。
45時間
36協定があっても、残業は原則ひと月45時間まで
360時間
36協定があっても、残業は原則1年360時間まで
命令には上限もある、ということです。特別な取り決め(特別条項)があれば45時間をこえられますが、それでも年720時間までなどの上限があります。では、もし「辞めてほしい」と言われたら?
06「辞めてほしい」と言われても、その場で返事しない
ひとことですすめに応じるかは、自分で決める。クビなら、理由を書面でもらう。
会社が「辞めてくれないか」とすすめることを、退職勧奨といいます。クビとはちがい、応じるかどうかを決めるのはあなたです。
国は、本人が自由に決めるのをさまたげるような退職勧奨は、違法になる場合がある、としています。すすめに応じて辞めた場合は、自己都合の退職にはなりません。失業手当での扱いは、ハローワークで確かめてください。
言われたときの順番
その場で返事やサインをしない
「少し考えさせてください」でOKです。退職届や合意書に、その日のうちにサインしないでください。
言われたことをメモする
いつ、だれに、何と言われたか。日付と一緒に残します。メールやチャットは消さずに保存しておきます。
クビなら、理由を書いた紙をもらう
予告された日から辞める日までに頼めば、会社はすぐに理由を書いた紙を出す決まりです(労働基準法22条)。出してもらえないときは、労働基準監督署に相談できます。
ルールブックの「解雇」の項目と見比べる
紙に書かれた理由が、ルールブックのどの項目に当たるのかを見ます。
総合労働相談コーナーに相談する
国がやっている、無料の相談窓口です。予約はいりません。ただ、専門の相談員がいないこともあるので、先に電話すると確実です。各地の労働局や、労働基準監督署の中にあります。クビや退職のすすめ、いじめなど、働くことのトラブルを広く相談できます。
気をつけて
心や体がつらいときは、先に相談を
「最低限しかできない」のが、疲れ切っているせいなら話は別です。眠れない、朝起きられない日が続くなら、まず休むことと相談することを選んでください。厚生労働省の「こころの耳」には、電話やSNSで話せる窓口がまとまっています。
07黙って引くより、「ここまでやる」と伝える
ひとことで距離をとるなら、線の内側で。それを言葉にすると、すれちがいが減る。
ここからはWE POPの考えです。仕事と少し距離をとること自体は、悪いことではないと思っています。ただ、何も言わずに引くと、上司には「やる気がない」とだけ見えがちです。
あなたの距離のとり方、線の内側?
当てはまったのは 0 / 6個
おすすめは、評価の面談で期待をすり合わせることです。「この仕事は期限までにやります。新しい担当は、今は増やせません」。こう言葉にするだけで、印象はかなり変わります。
休むことも、働く人の権利です。有給休暇の日数や使い方は、有給休暇のルールの記事で確かめられます。
ポイント
「最低限でいい」が半年続いたら
毎日そう思うのが半年、1年と続くなら、今の職場が合っていないサインかもしれません。辞めると決めなくて大丈夫。ほかの会社の求人をながめるだけでも、今の仕事との距離をはかる材料になります。
08よくある質問
Q「やる気がない」だけで、クビになる?
Aクビには、だれもが納得できる理由と、やりすぎでないことの両方が要ります(労働契約法16条)。「やる気がない」という印象だけでこれを満たすのは、簡単ではありません。ただ、仕事を終わらせない、注意されても直らない、といった事実が重なると話は変わります。
Q定時で帰ると、評価は下がる?
A評価の基準は会社ごとなので、ひとことでは言えません。気になったら、何を見て評価しているのかを上司に聞くのがいちばん早いです。なお、残業を命じられていない日に定時で帰るのは、約束どおりの働き方です。
Q異動を断ったら、どうなる?
Aルールブックに定めがあり、職種や勤務地を限る約束がなく、やりすぎでもない命令なら、断ると懲戒の理由になりえます。転勤の命令を、権利の濫用(やりすぎ)に当たらないとした最高裁の判断もあります。家族の介護など大きな事情があるときは、早めに会社へ伝えて相談してください。
Q契約社員(期間の決まった契約)でも同じ?
A期間の途中でクビにするのは、さらに厳しく「やむを得ない事由」がないとできません(労働契約法17条)。ただ、期間が終わったときに更新しないこと(雇止め)は、別のルールで判断されます。
今日の最初の一歩
就業規則の「昇給」と「解雇」のページを開いてみる
社内のポータルや共有フォルダで、ルールブック(就業規則)を探してみてください。職場(事業場)に、パートやアルバイトも含めていつも10人以上いるなら、会社はつくる決まりです。いつでも見られるようにもしておきます(労働基準法89条・106条)。人数が少ない職場では、ないこともあります。そのときは、労働条件通知書を見てください。見るのは2か所だけ。何で給料が上がるかと、どんなときに辞めさせられるか。5分で、自分の会社の線の位置がわかります。
2026.10.13 公開 文・WE POP編集部
参考にした情報
- e-Gov法令検索「労働契約法」(第3条・第6条・第8条〜第10条・第16条・第17条)
- e-Gov法令検索「労働基準法」(第12条・第20条・第21条・第22条・第24条・第36条・第89条・第91条・第106条)
- 厚生労働省「労働契約法のあらまし」(条文の解説と、日立製作所武蔵工場事件などの判例)
- 厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」(解雇・解雇予告・解雇理由の証明・退職勧奨)
- 厚生労働省 確かめよう労働条件「裁判例:解雇」(セガ・エンタープライゼス事件ほか)
- 厚生労働省 確かめよう労働条件「裁判例:配置転換」(東亜ペイント事件・滋賀県社会福祉協議会事件ほか)
- 厚生労働省「雇用指針」(配転、能力不足・成績不良による解雇)
- 厚生労働省 よくある質問「一方的に給料を引き下げられました。これは労働基準法違反ではないのですか。」
- 新潟労働局 よくあるご質問「減給の制裁」
- 厚生労働省 確かめよう労働条件「会社から解雇予告を受けました。解雇理由の証明書を請求できますか?」
- 厚生労働省 スタートアップ労働条件「時間外労働の上限について」
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
- 厚生労働省「こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」
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