この記事にはプロモーションを含みます。登場するユイさんやナオさんたちは、WE POPが作った架空の人物です。数字は国の調査のものです。
「来年は、3と0だね」。妹の言葉に、ユイさんはうまく笑い返せませんでした。
去年の10月、29歳の誕生日の金曜日でした。妹のメイさんが、ケーキと数字の形のろうそくを持って、ユイさんの部屋に来てくれました。吹き消したあと、「2」と「9」のろうそくを抜きながら、メイさんが笑って言ったのが、さっきの一言です。
メイさんが終電で帰ったあと、ユイさんはお皿を洗って、テーブルでスマホを開きました。1年前に登録したまま、一度も応募していない求人サイトです。トップには「20代のうちに見ておきたい求人」の特集があり、その下に「30代の転職」という見出しが並んでいました。来年の今ごろは、こっちを見る側なんだ。そう思ったとき、さっき食べたケーキが胃のあたりで重くなりました。
ユイさんは「30歳までに転職 ヤバい」と検索しました。「20代のうちに動かないと後悔する」という見出しが、いくつも出てきました。ユイさんはどれも開かずに、検索の画面を閉じました。
今日で29歳になった
おめでたいはずなのに、求人サイトの「30代の転職」から目がはなせない
30歳までに転職しないと、もうヤバいのかな
既読誕生日が終わる2分前に送った相手は、同じ職場にいた2つ上の先輩、ナオさんです。ナオさんは31歳のときに転職して、今は別の会社で働いています。返事は「起きてる。来週の土曜、お昼行こ」の一言でした。
ユイさんは、賃貸マンションを管理する会社の事務所で、入居している人からの電話や、修理の手配を受けもって7年目でした。入社式の日の夜、手帳のいちばん後ろのページに「30歳までに、人に頼られる人になる」と書いたのを、今も覚えています。
次の週、ユイさんは夜になると求人サイトを開いて、気になる求人を保存していきました。木曜日には23件になりました。でも、どの求人にも「経験者歓迎」とあって、自分の7年がその経験に入るのかは、どこにも書いてありません。
その木曜日の夕方、ユイさんはムラタ課長に会議室へ呼ばれました。「来年の春から、チームのリーダーをお願いしたいんだ。30歳だし、ちょうどいいと思って」。ユイさんは「ありがとうございます」と頭を下げました。求人を見ていることは、言えませんでした。その夜、保存した23件の求人を、ユイさんは開けませんでした。
0130歳までに転職しないと、ヤバい?
その週の土曜のお昼、駅前の定食屋で、ナオさんは先にからあげ定食を頼んで待っていました。
誕生日おめでとう。で、30代がこわいって?
検索したら、20代のうちに動けって記事ばっかりで
私、31で転職したけど
それはナオさんだからでしょ
30代の前半で転職する人、そんなに少なくないよ
働く30〜34歳の女性のうち、1年のあいだに転職して新しい職場に入った人13.1%約8人に1人
同じく、25〜29歳の女性17.1%約6人に1人
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査」(2025年の1年間の転職入職率、女性)。パートで働く人もふくみます。
少しは減るけど、30代でもふつうにいるんだ
そう。だからヤバいかどうかより、29歳のユイが外で何を選べるかを聞いてみたら?
でも7年いて、資格もないし、言えることなんてないよ
新人の子の隣の席って、毎年ユイじゃなかった?
今年の子で5人目
その5人が最初に何でつまずいたか、思い出して書いといて
帰りの電車で、ユイさんはスマホのメモに5人のことを書きました。1人目は、怒っている入居者さんからの電話で固まっていました。3人目は、修理の業者さんへの頼み方がわからずに、30分メールを書いていました。書いているうちに、5人とも、最初の1か月でつまずく場所はだいたい同じだったことに気がつきました。
外で話を聞いてみたい気はする
でも29歳って言ったら、「急がないと」って急かされそう
02相談したら、急かされそう
私は、キャリアの相談ができる転職サービスで話したよ
最初に「半年くらいかけて考えたい」って言ったけど、急かされなかったよ
お金は? 断りにくくならない?
相談はタダ。お金は、採用する会社が払うしくみなんだって
紹介された求人も、ほとんど断ったよ
転職の相談が無料で使えるしくみは、転職エージェントが無料のわけの記事でくわしく書いています。
03「毎年、頼まれることはありますか」
その夜、ユイさんは5人のメモの上に、聞きたいことを3つ足しました。7年の事務の経験は、ほかの会社でどんな仕事につながるか。30歳になる前と後で、何か変わることはあるか。働きながら、半年かけて探せるか。
書き終えてから、キャリアの相談ができる転職サービスに、スマホで面談を予約しました。急いで動くかどうかは、話を聞いてから決めることにしました。
面談は、次の週の水曜日の夜でした。ユイさんは最初に「半年くらいかけて考えたいです」と伝えました。聞きたいことを聞き終えると、担当の人が言いました。「この7年で、毎年のように頼まれることはありますか」。
ユイさんは「特にないです」と答えかけて、手元のメモが目に入りました。「新人の隣の席です。今年で5人目でした」。5人がつまずいた場所の話をすると、担当の人は最後まで聞いてから、こう言いました。
画面を閉じたあと、ユイさんは手帳のいちばん後ろのページを開きました。「30歳までに、人に頼られる人になる」。毎年、新人の隣の席をまかされてきたことを、ユイさんは初めてその1行と並べて読みました。紹介された7社の中から、新しく入った人の研修を受けもつ仕事を、ユイさんは1週間考えてから、自分で2社選んで応募しました。
あなたの場合面談の前に、聞きたいことと、毎年頼まれることを書いてみる
書いた内容は、この端末の中にだけ残ります。
04次の10月、同じテーブルで
応募した2社のうち、1社は書類で落ちました。もう1社から内定が出たのは、1月のことです。賃貸の管理をする別の会社で、新しく入った人の研修をまかされる仕事でした。
退職を伝えると、ムラタ課長はしばらく黙ってから言いました。「リーダー、頼みたかったんだけどな。でも新人の受け入れは、ユイがいたから毎年回ってたんだよな」。今度は、ユイさんも自分の言葉で、これまでのお礼を言えました。
4月から、ユイさんは新しい会社で、新人のための最初の1か月の予定を組んでいます。怒っている電話を受けたときのメモも、業者さんへの頼み方の見本も、5人のメモから作りました。
そして10月、30歳の誕生日の夜。メイさんは今年も、ケーキと数字のろうそくを持ってきました。箱から出てきたのは「3」と「0」です。
「これ、大丈夫だった?」と、メイさんが少し心配そうに聞きました。ユイさんは自分でろうそくを立てて、言いました。「30歳、ちょっと楽しみ」。メイさんは「去年と、顔が全然ちがう」と笑いました。
今年は3と0のろうそく、ちゃんと吹き消せた
既読30代へようこそ。こっち、けっこう楽しいよ
送ったあとで、ユイさんは思い出しました。1年前、同じテーブルで、求人サイトの「30代の転職」の文字を眺めていたことを。
動くかどうかは、30歳で選べる道を聞いてから決める。
ユイさんにとってあの面談は、30歳からの自分の予告編でした。
今日の最初の一歩
今夜、寝る前に、スマホのメモに「毎年のように頼まれること」を1行書いてみる
5分で終わります。新人の世話、「〇〇さんに聞いて」と回ってくる仕事など、小さなことでかまいません。書けたら、面談で聞きたいことも3つ並べておくと、話しやすくなります。
2026.10.14 公開 文・WE POP編集部
参考にした情報
- 厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」(2026年8月31日公表)
- 厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」3 転職入職者の状況(図4-1 性、年齢階級別転職入職率:女性 25〜29歳 17.1%・30〜34歳 13.1%)
- 石川労働局「職業紹介事業とは」(手数料のしくみ)
- キャリナビ 公式サイト(無料のしくみ・相談の流れ)
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